ズルい思考と欲と

28/31
前へ
/512ページ
次へ
 なんだかよく分からないけど……先輩が、今目の前で「うまい」って言いながら、私の作ったものを食べてくれている。  行かなくてよかったんですか? って聞くと不機嫌になったから、もう聞くのは止めた。    先輩が判断したんだから、居ていいことにしよう。  ちょっとだけ。  あと少しだけでいいから、独占したい―――なんて思うのは、いけないこと?  ずっとなんて言わない。  今日、あと少しだけでいい。  ただの学校の先輩後輩。  私と尚人先輩の間にはそれしかないけれど、でも私にはそれだけで十分だから。  中学から憧れていた、形は違うけどマネージャー気取りも実現できた。  その気分をあと少しだけ……そうしたら、またいつものそっけない関係に戻るから。  ―――あとちょっと、隣にいる時間を独占させて下さい。  そう思いながら、ゆっくりと瞼を閉じてその時間に浸ろうとしたとき、先輩から不意に質問が飛んできた。  「お前さぁ、石蹴るの止めたら?」  「石?」  「そ、石ころ。今日も蹴ってただろ」  「う……」  さっき痛めた親指を思い出し、なぜか今頃痛い気がしてきた。  「怪我するなんて、お前くらいだろ」  「う……はい。あ、でもね」  「何?」  「いや、やっぱいいです」  蹴った石が当たって『あれ、もしかして』……って、展開を期待してるんだけど、それを他人が聞くと私って単なるバカじゃないかって気が付いた。  よくよく考えたら、私と先輩は出会ってるんだから、そのシチュは実現不可能だ。  今となっては癖みたいなものになってるわけだし。  このややこしい話を先輩にうまく出来そうにもなくて、私は口を噤んだ。  そんな私の横で、ふぅーっと息を吹きながらベンチに深く腰掛ける先輩。  ふと、今の私たちって周りから見たらどう映るのかな? なんてニヤニヤしながら想像しちゃったけど、そんなことしてたらお前バカだろって言われそうな気がして、慌てて口元を手で覆った。  それでも嬉しい想像が止まらなくて、ふふって笑ってしまうと、横から怪訝そうな顔で見下ろされる。  でも瞳がぶつかって、また私の頬は緩むだけだった。 
/512ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2485人が本棚に入れています
本棚に追加