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なんだかよく分からないけど……先輩が、今目の前で「うまい」って言いながら、私の作ったものを食べてくれている。
行かなくてよかったんですか? って聞くと不機嫌になったから、もう聞くのは止めた。
先輩が判断したんだから、居ていいことにしよう。
ちょっとだけ。
あと少しだけでいいから、独占したい―――なんて思うのは、いけないこと?
ずっとなんて言わない。
今日、あと少しだけでいい。
ただの学校の先輩後輩。
私と尚人先輩の間にはそれしかないけれど、でも私にはそれだけで十分だから。
中学から憧れていた、形は違うけどマネージャー気取りも実現できた。
その気分をあと少しだけ……そうしたら、またいつものそっけない関係に戻るから。
―――あとちょっと、隣にいる時間を独占させて下さい。
そう思いながら、ゆっくりと瞼を閉じてその時間に浸ろうとしたとき、先輩から不意に質問が飛んできた。
「お前さぁ、石蹴るの止めたら?」
「石?」
「そ、石ころ。今日も蹴ってただろ」
「う……」
さっき痛めた親指を思い出し、なぜか今頃痛い気がしてきた。
「怪我するなんて、お前くらいだろ」
「う……はい。あ、でもね」
「何?」
「いや、やっぱいいです」
蹴った石が当たって『あれ、もしかして』……って、展開を期待してるんだけど、それを他人が聞くと私って単なるバカじゃないかって気が付いた。
よくよく考えたら、私と先輩は出会ってるんだから、そのシチュは実現不可能だ。
今となっては癖みたいなものになってるわけだし。
このややこしい話を先輩にうまく出来そうにもなくて、私は口を噤んだ。
そんな私の横で、ふぅーっと息を吹きながらベンチに深く腰掛ける先輩。
ふと、今の私たちって周りから見たらどう映るのかな? なんてニヤニヤしながら想像しちゃったけど、そんなことしてたらお前バカだろって言われそうな気がして、慌てて口元を手で覆った。
それでも嬉しい想像が止まらなくて、ふふって笑ってしまうと、横から怪訝そうな顔で見下ろされる。
でも瞳がぶつかって、また私の頬は緩むだけだった。
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