プレゼント

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 タイトル:プレゼント  年度末。  忙しいこの時期に、今日のうちの部署はちょっと騒がしい。仕事が理由ならいいけども、理由は仕事じゃない。耳に入ってくる言葉たちにイライラしながら私は席を立った。  「ごめん、ちょっと手洗い」  電話を取れなくなるという意味を込めて隣の後輩に離席を伝え、私は颯爽と部屋を出た。  カツカツとヒールの音を響かせながら歩いていたら、だんだんと響く音の間隔が開いてくるのが分かる。そんな自分にも苛立ちながら用を済ませ、洗面台に向かって暗い自分の顔を見て、叩いてやりたくなった。  「馬鹿みたい」  今日がアイツの誕生日だと気が付いたのは、朝会社に来てからだった。調子のいい彼は、去年誰かれなく愛想を振りまきながら「俺、誕生日なんですよね」と言いまわっていたから、彼女らはそれを覚えていたのだろう。  比べて自分はというと、彼の誕生日を確かめることもせず、なんとなくその話題を避けていた。自分と彼の年齢差と言うものから目を背けたかったせいだ。  けれど――いざその日が来てみれば、知らない自分に後悔した。自分の手元には、彼のためになにも用意されていないことがあまりにも悔しくて……  そのまま席に戻りたくなくて、ふらりと給湯室に入った。特別何か飲みたいわけでもなかったけれど、置いてある給茶機横のカップに手を伸ばす。すると背後から掴まれた右手。直後に香るコロンの匂いと、背中から伝わる体温ですぐに誰だか分かった。けれど、いろいろな思いが交錯して振り向くことが出来ない。ドキドキしながら私がようやく振り絞った言葉は――  「離れてよ」
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