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いくら今誰もいないとはいえ、給湯室は誰でも入ってくることが可能な場所だ。いつ誰がどんなタイミングで自分たちを目撃するかなんて、分かったものじゃない。
それにまだ、素直に認めたくない自分が居た。私が、向坂淳を好きだなんて――
「冷たいなぁ、先輩は」
「当たり前のことを言っただけでしょ」
さらにそっけなくそう返すと、取りあえず離された右手。そのことに少しだけ安堵しつつ、予定通りにカップを置いてコーヒーのボタンを押した。直後、ウィーンと音を立てて稼働する音が聞こえる。けれど背後に立つ彼との距離が変わらず、私は少しだけ左にずれた。もしかしたら、カップを取りたいのかもしれない、そう思って。
「ねぇ、先輩」
「……なに」
別にクールキャラを装いたいわけでもないけれど、今までがこうだったのに今さらガラリと態度を変えることも出来ない。こんな可愛げのない私なんか、あっという間に捨てられるかもしれない。ましてや、年上だし、先輩だし、誕生日だって――知らないし。
くだらないとは思いつつも、ネガティブな思考で頭が埋め尽くされてうまく立ち直れない。ポタリと最後の一滴が落ち切るところまで見届けてから、カップを掴もうとぎこちなく右手を伸ばそうとした瞬間。
左から伸びてきた腕に腰を引き寄せられて、背中が背後の彼に密着した。そのまま有無を言わさない力で抱きすくめられて息が止まる。何をどうしていいか分からなくて小さく震えながら、ぎゅっと目を閉じた。
右耳に近づく吐息。触れる柔らかな感触。誰か来たらどうするの!? という気持ちよりも、何をされるのかという期待の方が少しずつ脳を支配していくのを感じる。
「……ッ!?」
なんて思っていたら、首筋に口づけられて少し強めに吸い上げられた。そのままチロリと舐められて、またピクリと震えた。
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