指先王子

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 視線はお互いにその白い筋を辿るのに、二人の間にはコチコチと時計の音だけが響く。  時折、ブーンとこたつの電力が上がる音が交り、冬の寒さを感じさせた。  スンと鼻をすすると、鼻先が冷えるな……と麻衣子が思っていたら、再び啓太が同じ質問を繰り返した。  「お前食うか?」  「それ、はいらない」  こんな会話、何度もしてきたのに飽きないのか、と麻衣子は思う。けれどそれでへこたれる啓太ではない。  はぁ、と面倒くさそうにため息を吐くと、贅沢モノ、とボソと呟いた。  それに片眉を上げながらテーブルに乗せた顔を少し浮かせ、啓太のいる方と反対を麻衣子は見る。変わらないその態度は、何年も前から同じだ。  けれど反対を向いてテーブルに付いた左頬が、やけに冷たく感じるのは罪悪感のせいだろうか、などと思いながら麻衣子は再び瞼を閉じた。  「剥いてくれなんて、言ってないし」  「はいはい」  その会話も何十回もしている。だから麻衣子は分かっているのだ、この後啓太がどうするかなど。  再び静寂が二人の空間を包んで、コチコチと時計の音だけが耳に入ってくる。その中でまた、ブーンとこたつが音を立てた。  背を向けつつも、背後で啓太のしていることを思えば自然と麻衣子の頬が緩んだ。  「麻衣子」  呼ばれて顔をまた反転させると、上を向いていた右頬に冷えを感じた。  またぺたりとテーブルにくっ付けながら、小さく唇を開く。
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