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『目標地点到着5分前。
隊員はただちに降下準備に入れ』
暗く狭い室内に機内放送が鳴り響いた。
ベッドの上で少年が静かに目を開く。
まだ10代半ばといったところか。
その目はどこか寂しげで退屈そうだ、例えるなら死んだ魚の目。
「…………」
少年は体を起こすと肩まで伸びた髪を後ろにはねて壁の時計に目をやった。
時刻は午前3時20分、深夜だ。
そのままベッドから降り、壁に掛けてある服に着替えはじめる。
真っ黒なスカイダイビング用スーツだ。
窓の外では夜空を背景に白い雲が流れては消えてゆく。
ここは上空30000フィート。
限りなく大気圏に近い死の領域。
今から少年はそこに身を投げるのだ。
着替えを終えた少年は大きなため息をこぼすと部屋から出た。
「遅いぞ!
急げ」
声のした方、廊下の奥には真っ黒な軍服に身を包んだ黒人の男がいた。
かなりガタイがいい。
こちらは40代くらいか。
なにやら急かしているようだが少年はゆっくりとそちらへ歩いた。
「ちっ、生意気なガキだな。
こんなのが今回の作戦の鍵になるとは……
我が軍も落ちたな」
「……」
少年は黙って、というより無視するように男の前を通過した。
廊下の先はこの飛行機の後方部、貨物室だ。
搬入用のハッチが既に開けられ、死の世界がすぐそこにあった。
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