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翔
「仕方ないな、紅零は後回しだ………………………『翔子』、おい、風邪引くぞ、起きろ。」
紅零とは逆にいた女性を揺する。
彼女は『田村 翔子(タムラ ショウコ)』幼い頃、俺の一番古い記憶ではもう既に俺の近くにいた女性だ。
じつは俺と翔子には三歳以前の記憶がない。
気が付けばその辺のあぜみちで二人で手を繋いで立っていた、思い出せたのは【お互いの名前】と【お互いが大事な存在であること】………………これはまぁなんていうか【翔子は俺の嫁】って奴だ。そしてもう1つ、【自分達が吸血鬼であること】だけだった。
この後の事は今になって考えてみればこれ以上無いほどの幸運だった。
よくわからない連中に車の中に押し込まれ、保護者の連絡先を聞かれた、恐らくは誘拐犯かなにかだったのだろう、連れ込まれた場所には何人もの子供達がいて、皆痣や傷があった、翔子もこんな目に遭わされるかも知れないと考えたら後は簡単だった、ただ、そこにいた大人を再起不能になるまで叩きのめした。
吸血鬼とは言え子供だった俺は勿論無傷でと言うわけにはいかず、ボロボロになった。
目を覚ますとそこには俺と翔子しかいなかった。
それからは連れ込まれた廃墟を生活の拠点とし、過ごした。
誘拐犯共が溜め込んでいた金や日用品のお陰で生活には困らなかったし、金がなくなったら俗にいうサラ金的な事務所を襲って回った、そのお陰か闘う事に対する経験や武器を手に出来た。
一番最初に手に入れた刀は今でも持ち歩いている。
鍔もなければ反りもない、白い鞘に納まった不思議な刀、銘は【龍牙】といい、今まで欠けたことも曲がったこともなく、錆びる気配がない、少し不気味だが頼りになる刀だ。
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