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服を掴んだまま、離そうとしないテシンさんを見て溜め息1つ。
『離してくれ、私は正義のヒーローじゃないんだよ』
「…どうしても、ですか?」
そんな顔をしても駄目だ。
『あぁ、私はこのクダラナイ世界が終わろうが潰れようが何も感じない』
他人なんて所詮他人。
じゃあ家族は?
そんなのシラナイ。感じたことない。無償の愛なんて、感じたことなんてない。
私はそう言う、育ち方をして生きてきた。
「…君は、悲しいな」
独り言の様に言うテシンの言葉に体は止まった。
何を感じたか知らない…だけど、知らない霊に同情されるのは良いものではない。
『君に…何が分かる…』
分かる訳がない…私が今まで生きてきた道がどれだけ困難だったか…会ったばっかりの他人(霊)に分かっててたまるか。
『お前が何かは知らない…私には関係ないから興味もない…』
「君は泣いてるんだ…僕にはわかる」
そう言って長い睫毛を下に向けて綺麗な銀髪は風になびく。
その光景が私にはどうしても寂しそうに見えた…。
「君は、誰よりも先を歩いてる。他人は君が泣いてる事に気付かない…だって、他人は君の後を歩いているから…
君は苦しいのに、痛いのに、寂しいのに、…自分自身、涙を流している事に気付かずに歩くんだ」
な、なんなんだ…こいつ…
嫌だ、嫌いだ、人のことをわかってるみたいに…!!
カッと頭に血が昇る、気付いた時には、普段出さない大声をあげていた。
『黙れ!!!!』
「……(ビクッ)!!」
『アンタに…私の過去の何が分かるんだ!!』
「……君の過去なんて分からないよ…」
『!!だったら…分かったようなことを言うなっ!!』
「でも、少なくとも今の君は泣いて歩いてる…僕には分かるんだ…」
『な…何を…!!』
今の私は泣いてなんかいない、泣きたいなんて思っていない…感じているのは、人の心を分かったふりするコイツへの怒り。
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