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江藤の顔つきが、またもや変わった。
あのレストランで見せた、あの冷たい顔に。
「私を満たしてくれるからですよ、私をね……」
彼は笑みを見せたが、私はそれに対して畏怖を感じた。
こう、背中に震えが襲う感じだった。要するにとてつもない悪寒を感じたのだ。
そして、丁度道が終わり、地下へ続く階段に差し掛かった。
「あぁ、この階段、滑りやすいので気をつけてくださいね」
「お、おう」
彼の忠告は、私の耳を通り抜けていった。
私にはこの地下へと階段が、私を何かに誘う気がしてならなかったからだ。
(心配しすぎなのだろうか……)
こういう時に私は思う。 自分は小心者だと。
いつだって、そうだ。私は慎重さを重視する故にに、臆病になる。
そして、後悔する。
それを何度も繰り返してきたのだから、嫌になる。
情けない……本当に情けない。
たかだか、友人の知らない部分を知るだけじゃないか。何を怯える必要があろうか、何も怯える必要はない。
そして、私はその時、思った。
────重く考えず、全てを受け止めればいい、と
「……ここか?」
「ここです」
そう考える内に最終地点に辿り着いた。階段を降りた先には、また鉄の扉があった。
だが、この扉は重々しく、何かを拒む威圧感が醸し出されていた。
「さて、開けますか」
江藤はそう言うと、私より前に行き、扉の取っ手を両手でしっかりと握るように持った。
そして、彼は渾身の力を込めて、一気に扉を引いた。
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