―第一章死体美学―

12/31
前へ
/94ページ
次へ
江藤の顔つきが、またもや変わった。 あのレストランで見せた、あの冷たい顔に。 「私を満たしてくれるからですよ、私をね……」 彼は笑みを見せたが、私はそれに対して畏怖を感じた。 こう、背中に震えが襲う感じだった。要するにとてつもない悪寒を感じたのだ。 そして、丁度道が終わり、地下へ続く階段に差し掛かった。 「あぁ、この階段、滑りやすいので気をつけてくださいね」 「お、おう」 彼の忠告は、私の耳を通り抜けていった。 私にはこの地下へと階段が、私を何かに誘う気がしてならなかったからだ。 (心配しすぎなのだろうか……) こういう時に私は思う。 自分は小心者だと。 いつだって、そうだ。私は慎重さを重視する故にに、臆病になる。 そして、後悔する。 それを何度も繰り返してきたのだから、嫌になる。 情けない……本当に情けない。 たかだか、友人の知らない部分を知るだけじゃないか。何を怯える必要があろうか、何も怯える必要はない。 そして、私はその時、思った。 ────重く考えず、全てを受け止めればいい、と 「……ここか?」 「ここです」 そう考える内に最終地点に辿り着いた。階段を降りた先には、また鉄の扉があった。 だが、この扉は重々しく、何かを拒む威圧感が醸し出されていた。 「さて、開けますか」 江藤はそう言うと、私より前に行き、扉の取っ手を両手でしっかりと握るように持った。 そして、彼は渾身の力を込めて、一気に扉を引いた。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加