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「殺害シーンは人を殺すという“行為”だからわからなくもないですが、事後“結果”である死体シーンが悪影響を与えるというのは些か腑に落ちませんね」
江藤は普通に返してきている、なのに何だというのだ、彼の表情は。
彼の顔からみるみる血の気が引いていく。
それだけじゃない、彼を囲む空気が明らかに下がった。
ツララのような冷たさと鋭さを肌身で感じた。
───今の彼は、総合して“冷酷”と言わざる得なかった。
その時の私は何故、彼がこうなったのかわからなかったので、彼に負けないように不安と驚きをコーヒーで流し込んだ。
「いやいやいや、残虐性という点で見れば、死体シーンも十分、悪影響だと思うよ。人が死んだ後を写すなんて。死体を直視して人は正常でいれると思うのかい?」
彼は聞こえるか聞こえないかの小さいため息をついた。
そして、片方の手で頭を抑えながら首を横に振った。
「あなたは、何もわかっていない……。物事の本質が見えていませんよ」
今度は彼の態度に対してムッときたが、抑えた。
そして、私はまじまじと彼の話を聞いて背中が疲れたのでイスにもたれ掛かった。
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