―第一章死体美学―

6/31
前へ
/94ページ
次へ
「どういう意味だ?」 「……、死体シーンが悪いというのは偏見に過ぎないということですよ」 そう言って、彼は店員に水のおかわりを頼んだ。 「死体シーンは偏見の目で見られているということかい?」 やがて、ウェイターの1人が水を持ってやってきた。まだ、私の水はあったがついでに入れてもらった。 「その通り! くだらないメディアが植え付けた間違った認識なんですよ」 「いやいや、間違った認識をしてるのは江藤の方じゃないのか?」 そう言った途端、江藤が鋭い眼光を見せたので、私は反射的に目を反らした。 「何故です?」 「死体シーンは人の死を冒涜していると思うからだよ。ほら、一般的に言うだろ、グロいって。つまり精神的に悪影響ってことさ」 私は強気に出たが、江藤と視線を合わせる事ができなかった。 怯えているのだろうか? 昔からの親友とも呼べる人に? この、心の奥深くから来る芯の通った感情は何なのだろうか? わからなかった。 私はテーブルにあったおしぼりを使ってコップが生み出した、水滴を丁寧に拭いていた。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加