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ともかくさおりちゃんは私が探して連れて行くからと、裕太君はちょうど松葉杖をついて逃げてきた顔見知りの入院患者と一緒に避難するように促して、私は一人逆走。
「さおりちゃーん!さおりちゃん居ないのー!?……げほっごほっ……さおりちゃーん!!」
パジャマの襟で口元を押さえながら、病室の扉を一つ一つ開いて声をかける。
この頃にはキナ臭さと共にうっすらと視界が白に染まりつつあり、先程の非常ベルは火災を知らせていたのだと理解しました。
「…………?」
何か聞こえた気がして耳をすませると
「……っえぇ……ぁさん……ぃちゃ……うっ……ぐすっ」
「さおりちゃん?」
女子トイレの中でしゃがみ込んで泣いて居るさおりちゃんを発見しました。
女子トイレて……そりゃ、お兄ちゃんは見付けられなかっただろうさ!!
「……っく!ゔわぁーーん、はがぜぇー!!ぐすっ、あ゙あ゙ぁーん゙!!!」
「っと、大丈夫!もう大丈夫だから、ね?一緒にお兄ちゃんの所まで逃げよう?」
泣きながら飛び付いて来たさおりちゃんをしゃがんで抱きしめ、背中を擦って宥めます。
さおりちゃんがいつも持って来る猫さんの形をした可愛らしいポシェットにハンカチが入ってるのは知っていたから、それで口を押さえてるように言って彼女を抱き上げると、右手のハンカチで自分の、左手のティッシュで私の口元を塞いでくれました。
本当は這って進んだ方がいいんだろうけど、怯えて未だにしゃくりあげている女の子にそんな提案も出来ず、心持ち屈みながら視界の悪い中階段をおりて行く事に。
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