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ひらり、と若者の体が宙に舞った。
朔夜が視界に捉えることができたのは、それだけだった。
一瞬後には、殴りかかった男が地面に倒れ、苦痛の呻きをあげていた。
若者は何事もなかったかのように、涼し気な表情で、男がいた場所に佇んでいた。
白いコートの裾がはらりと揺れている以外、若者の激しい動きの余韻を伝えるものは何もなかった。
男の攻撃をかわしつつ、すれ違いざまに、若者が何かしたのだ。
だが、その動きがあまりに早過ぎて、視界に捉えることができなかったのだ。
(強い……!)
朔夜は内心、舌を巻いた。
今まで、自分よりも強い相手に出会ったことがなかった。
「武術の稽古は嫌いだけど、意外と役に立つね」
戦意のかけらもないような呑気な表情で、若者が誰にともなくつぶやいた。
「野郎っ、ふざけやがって!」
馬鹿にされたと感じたらしく、男たちが殺気を漲らせて一斉に若者に襲いかかった。
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