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甘い薔薇の香が、朔夜を包む。
狼狽とも怒りともつかぬ感情がカッと胸にこみあげ、朔夜は勢いよく相手の手をふり払った。
「気色悪い真似すんなっ!俺はおまえと友達になるつもりなんてねぇんだよっ!んじゃなっ!」
そのまま、くるりと背を向ける。
大股に2、3歩行きかけて、朔夜は立ちどまった。
肩越しにちらりとふり返ると、若者が、途方に暮れた様子で佇んでいた。
ひどく心細気な表情だった。
着ている薄手のコートも高級そうだし、ホテルに泊まるお金がないようには見えなかった。
まさか、チェックインの仕方を知らないわけでもないだろう。
(関係ねぇよ、俺には)
再び踵を返して歩き出そうとしたものの、若者の心細気な表情が妙に胸にひっかかり、朔夜は心の中で舌打ちした。
(チッ!しようがねぇな)
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