第1章

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しかし、そんな気遣いは無用だった。 部屋に戻ると、美織は安物のパイプベッドの上で、安らかな寝息をたてていた。 朔夜が貸した濃紺のパジャマがよく似合っていた。 子供のような、無防備な寝顔だった。 (俺が悪い人間だったらどうするんだよ、ったく) 美織のあまりの無警戒さに呆れながら、朔夜は見るともなしにその無邪気な寝顔を眺めた。 白い美貌に、長い睫が濃く影を落としている。 つくづく、綺麗な顔だ。 陶器のようになめらかな肌は女性のようにキメ細やかで、貴公子という言葉がぴったりだった。 容姿だけではなく、その言動も、どこか浮世離れしている。 (何者なんだ、こいつ……) ふと、そんな疑惑が胸に浮かび、朔夜は、らしくない自分の心の動きに戸惑った。 朔夜が他人に興味を示すなんて、滅多にないことだった。 (こいつが何者でも、俺には関係ねぇよ) 狼狽気味に心の中でつぶやいて、朔夜は布団の中に身を滑らせた。 美織にベッドを貸したので、床に布団を敷いたのだ。 布団に入ってから、朔夜は5分も経たないうちに深い眠りに堕ちた。
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