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しかし、そんな気遣いは無用だった。
部屋に戻ると、美織は安物のパイプベッドの上で、安らかな寝息をたてていた。
朔夜が貸した濃紺のパジャマがよく似合っていた。
子供のような、無防備な寝顔だった。
(俺が悪い人間だったらどうするんだよ、ったく)
美織のあまりの無警戒さに呆れながら、朔夜は見るともなしにその無邪気な寝顔を眺めた。
白い美貌に、長い睫が濃く影を落としている。
つくづく、綺麗な顔だ。
陶器のようになめらかな肌は女性のようにキメ細やかで、貴公子という言葉がぴったりだった。
容姿だけではなく、その言動も、どこか浮世離れしている。
(何者なんだ、こいつ……)
ふと、そんな疑惑が胸に浮かび、朔夜は、らしくない自分の心の動きに戸惑った。
朔夜が他人に興味を示すなんて、滅多にないことだった。
(こいつが何者でも、俺には関係ねぇよ)
狼狽気味に心の中でつぶやいて、朔夜は布団の中に身を滑らせた。
美織にベッドを貸したので、床に布団を敷いたのだ。
布団に入ってから、朔夜は5分も経たないうちに深い眠りに堕ちた。
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