懐中時計

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例えば今日みたいなどうしようもなく辛いと感じる日は、一日中懐中時計を見つめている。 何が楽しいのか、と言われれば分からない、と答えるだろう。 ただそこにあり針を進める懐中時計、針が刻む時と同時に機械式ムーブメントならではの心地よい「コチコチ音」が部屋に響く...。 こんな時、思い出すのは決まってあの夕暮れ時だ...。 ーー約束だからね、無くしたりしたら怒るから ーー無くすなんてそんな恐ろしいこと、できるわけないだろ ーー無くさないよ、絶対... あの何気ないであろう会話が僕を生かしている全てだと言ってもいいだろう その約束を果たす為に生きている. .. なんて自分らしくない言葉だろう、自分で発した言葉に今さら恥ずかしくなる。 僕は元々精神的に弱いところは確かにある。 だから何気ない言葉にも無駄に反応して一人で勝手に落ち込んでいる。 今日だってそうだ、普通に見たらあれはただの妬みだ。 ただ僕はそう思えない。 否定や妬みみたいな言葉は、全て自分の存在の否定に繋げてしまう。 こうなってしまったのはいつからだろう... 何が僕をそうさせたんだろう... それはきっとあの頃だろうと、予想はついてしまうのだ。 そうそれは... 「ピンポーン」 ビクッ、とした。 誰だっていきなり大きな音がしたらびっくりするだろう。 それに加えて僕はこういう音が滅法嫌いだ。 例えば電話の着信音、バイクのエンジン音...とにかく大きい音が嫌いなのだ。 っと、そんなことを考えている場合ではなかった。 本当は開ける前に顔を確認したいのだがあいにくこの家にはそういう機能は備わっていない。 防犯、という単語は聞く度に耳を痛くする。 気の進まないままに足を滑らせ、何とかドアの前まで辿り着いた。 そのままドアノブに下へ、前へと体重をかける... 「ガチャ」 昼の光が薄暗い部屋へ射し込む、少し目が眩んだが徐々に目も慣れてきた。 「やあ、元気してた?」 やっと目が慣れたというところに聞き慣れない声が僕の耳に飛び込んできた...
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