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はじめは父が鳴ったその電話を取り、しばらく何かを話していた。
その相手が母だと何となくわかりはじめると、父は僕に電話をよこしてきた。
「人身事故って小さな災害よね」
電話越しの母は言った。
僕は急のことで「え?」としか返せなかった。
「災害っていろいろあるでしょ?地震とか津波とか台風とか雷もそうかな」
僕は何故そんなことを急に話し出すんだとしか思っていなかった。
でも、そんなことを思っている僕を気にもしないで母は話を続けてきた。
「どれもさ、人を困らすし悲しませるでしょ。けど誰が悪いってわけじゃない」
僕は「そうだね」とか言って話を合わせたと思う。
「人身事故も同じ。電車が遅れて困る人もいれば悲しむ家族もいると思う。そりゃ普通の災害に比べたら少ないけどさ。でもこれも誰が悪いってわけじゃない。たいていは人身事故っていうくらいだから事故なんだし。自殺って場合もあるかもしれないけど、その人だって人を困らせたり悲しませたりしようとしてわざと自殺したわけじゃないよ」
「でも自殺に追いやった人とか」
「いや悪くないよ」
母はきっぱり否定してきた。
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