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今は仕事中だろう。 僕の家族には僕が物心ついたころから父が仕事の最中は電話をかけないという暗黙のルールがあった。 だからか連絡先で父の画面にいったにも関わらず僕は『戻る』ボタンを押していた。 父に「目の前で人身事故が起きた」と言って返ってくるのは必ず「今は仕事中だ」と言ってくるような気がしてそれが僕は嫌だったのかもしれない。 次に僕の携帯画面がたどりついたのはバイト先の店長だった。 いつもこの電車で通勤しているが、これは確実に今日のバイトに遅れるだろう。 家に戻り自転車で行けなくもないが出勤時間には間に合わない。 人が目の前で死んでから考えることがバイトに間に合わないというのは呑気なもので、それは僕によくわからない罪悪感を与えた。
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