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爺さんにはお気に入りがいる。別に可愛いとかじゃなくて、絵がうまい子。爺さんは教員といえどその世界ではそれなりに名の知れた人である。どちらか言うと教員というより芸術家。大学の教授に似た雰囲気がある。お気に入りの生徒を手塩にかけて育てて、悦に入る。それが老後の趣味らしい。
「まぁ、な。その子は絵はうまいんじゃが色がない」
「色。ですか……?」
「そう。お前はこの世界。何色に見える?」
「……よくわかりません」
「はは。つまらん奴だな。せめて、自分にはこの世界は灰色の世界にしか見えませんとでもいってみろい」
「自分にはこの世界は灰色の世界にしか見えません」
思いっきり棒読みで答えてやる。
「誰がそのまま返せと」
「逆に誰があんなこと言いますか」
「いかにも言いそうだかな。……まぁ、頑張りたまえ、飛べない鳥達よ。」
「飛べない鳥……達?」
「君たちば誰よりも立派な翼があるのに飛べないのさ。飛ぼうととしないのではなくてな。」
「さっきから何言ってるんですか?」
呆れ返って席を立ち帰り仕度をはじめると爺さんはさも予想どうりといった様な顔でこちらを見つめてこういうのであった。
「爺いの妄言じゃよ。まぁ、日本では古来から亀の甲より何とやらといってだなぁ。少し気に留めといたら役に立つぞい。」
何だよ、鳥だの色だの。知るかっての。
そう思いながら職員室を後にした。 外を見てもまだ明るく、蜩も元気にカナカナ鳴いていた。その蜩はどうにも僕には赤色に見えて、まだ大丈夫かなと思い。また白い廊下を歩き出す。
夕日で少しオレンジに染まった廊下を歩く僕の姿は果たして何色を見えているのだろうか。
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