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そこには、何かが生きていたという痕跡を感じられなかった。
辺りいったいは炭で覆われ、枯れ木さえそこには存在しない。
乾いた砂の擦れる風音だけが自己の存在を虚しく主張する。
そんな更地の中心に、一人の青年がいた。
黒い髪は首筋あたりまで伸ばしており、同様に目も黒い。
彼の目の奥には、なにも写ってなかった。
絶望に心を切り刻まれ、もはや写すことをやめてしまっている。
彼はただ、無気力にその場で膝立ちになっている。
表情も生きている人のそれには見えず、たまたま通り掛かった人からみれば、死んでいるのではと思わせる。
しかし、彼は生きている。
故に、ここで死ねればどれ程良かったか、ということがわかっている。
わかって、しまっている。
そして彼は両手を頭に持っていき、
「あ、あ、ああアアアァァアアァァーーーーー!!!!!」
虚空に向かって、絶望の叫びをあげる。
事は、ほんの数時間前にさかのぼる。
彼の希望は、たった数分で、跡形もなくくだけ散った。
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