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ある曇り空の昼下がり。
分厚いフィルター越しに日光が照らし出すのは、緑が一切見当たらない、鉄と屑の世界。
スクラップの大地のど真ん中にある広大な湖の岸で、一人の老人があぐらをかき、キセルから瓦斯(ガス)を噴かしていた。
その隣には、この土地に不釣り合いな、木漏れ日の様なブロンドの髪と、みずみずしい瞳を持った少年が佇んでいる。
二人は、湖を滑る様に進む武骨な船を見ていた。
いつもの様に。
やがて、少年が口を開く。
「ねぇ、じじさま」
老人はキセルを口から離し、少年の顔を見る。
老人の右の頬は剥がれ落ち、ピストンと歯が剥き出しになっている。左目はあらぬ方向を向いているが、右目だけは以前の端整な顔立ちの面影がある。
無論、彼に鼓動は無い。
あるのは、旧型アンドロイド特有のCPUの駆動音のみである。
黙って見つめ返す老人に、人間に見紛う程の生気を宿した少年は語る。
「僕、あの船で"スターダストステージ"に行きたい」
老人は、静かに湖の方へ向き直り、キセルを一吹きした。
船が警笛を鳴らして、湖畔の施設に入っていった。
苦虫を噛み潰した様な顔をして、老人は喋りだす。
「まだ、そんなことを言っておるのか?ジェルヴェ?」
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