追われる

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 社会人として生きることになれば、必ず一度くらいは”追われる”経験をするものだ。業種にもよるが、締め切り、ノルマ、時間等など。  そして、とある会社に勤めていた彼も追われていた。 「今日中に、終わらせなきゃ。今日中に、終わらせなきゃ。」 「大丈夫よ、今週中なら。」 「駄目なんだ。今日中に終わらせなきゃ。」  同僚の女子が、なだめた。しかし、彼は必死だった。  翌日以降、彼は会社に来なくなった。  人の噂も七十五日。とでもいうか、いつの間にか彼の事を気にする人はいなくなった。その頃に、別の女子社員が追われていた。 「ヤバい。マジ、ヤバい。早くしなきゃ。」 「別に、焦らなくて大丈夫よ。」 「駄目なの。今日の夕方までに終わらせないと。」  先輩の女子が、彼女をなだめた。やはり、彼女も焦っていた。  そして、彼女も翌日以降、会社には来なくなった。  実は、この会社では珍しくないことだった。なので、気味悪がって自主退社する社員は少なくない。  ある日の昼休み、ウワサ好きな女子社員が先輩に質問していた。 「先輩。確か、うちの会社って、締め切りとか期限とかノルマとかって無いですよね?」 「えぇ、無いわよ。それがどうしたの?」 「出勤しなくなった社員達って、何に追われてたんですか?」 「さぁ?考えたことも無いわ、そんなこと。ただ、真面目すぎただけなんじゃないの?」 「にしても、彼ら、異様でしたよ?」 「どうでもいいじゃない、そんなこと。それより、お昼食べに行きましょ。」  はたして、出勤しなくなった人達は、何に追われていたのでしょうかね?  未だその会社で勤める人達の誰かが、何かに追われていた。その後、出勤しなくなった人達の消息を誰も気にしていなかったため、彼らのその後は誰も知らない。
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