お隣りさん

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 初めての一人暮らし。彼には、今春から大学生としての生活が待っていた。彼が借りた部屋は三階。隣には、高校の時からの先輩が姉妹で先に暮らしていた。 「先輩、忙しいのに手伝ってもらっちゃって、すいません。」 「いつも、”気にするな”って言ってるでしょ。」  理由は知らないが、先輩は弟が欲しかったらしく、当時唯一の男子部員だった彼を、先輩は他の女子部員よりも可愛がっていた。 「でも。まさか、君が隣に越してくるとは、ね。」 「は、ははは。大学は違いますが、宜しくお願いします。」  彼の一人暮らし初日は、こんな感じで始まった。  大学の講義の時間割は、自分で組まなければならない。そのため、週に1、2度は夕方前に終わる日ができることもある。  彼が組んだ時間割にも、そんな日があった。そんな日の夕方ころに帰ると、彼は自分が借りてる部屋の奥から新妻らしき女性と鉢合っていた。 「こんばんは……、で合ってるんすかね?この時間だと。」 「夕方頃って、何て挨拶すれば迷いますよね?」 「この時間から外出ってことは、晩飯の買い出しっすか?」 「いつもは、ね。今日は違うの。」 「そうっすか。気をつけて行ってきてくださいね。お姉さん、美人だから。」 「ありがとう。じゃ、行ってきますね。」  彼女は軽く会釈してから、彼の脇を通り過ぎていった。その光景を、隣に住む先輩が見ていた。先輩は、彼が鍵を探している時に声をかけた。 「お帰りなさい。」 「あ、先輩。ただいま。さっきのお姉さん、綺麗っすよね?」  彼は、バッグから鍵を取り出しドアノブの穴に刺す。鍵を開けて部屋に入る前に挨拶しようと、先輩を見た。 「じゃ、先輩。また明日……って、どうしたんすか?難しい顔して。」 「うん……。その、いつも気になってたんだけど……。」 「なんすか?」 「さっき、誰と話してたの?」  それを聞いて、彼は血の気が引いた。  なぜなら、彼が借りた部屋は角部屋だったからだ。
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