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「ふふ、何を言って………」
世迷い言をと、杏香の言葉を馬鹿にしようとする。が、背後から聞こえた衣擦れの音を不穏に感じ、自身が殺した男が転がっている筈の後ろを振り向き、言葉を失った。
振り向いた先には、殺した筈の和矢が立ち上がっていたからだ。
「そ、そんな、そんな馬鹿な、ちゃんと手応えはあった、確かに頭蓋を割った筈だ!!」
不測の事態に狼狽え、無意識の内に一歩後ずさる光。
明らかに冷静さを欠いている光を、冷ややかな瞳で見詰めると、和矢は、不自然な程に自然な歩きで、意識の感覚をすり抜けるように近付き、一言と共に刀を振り下ろした。
「死ね」
「しまっ!!」
右斜め上から袈裟切りに振り下ろした刃が、反応の遅れた光を、左肩から斬り裂いた。
光を斜めに両断する為に放たれた斬撃は、相手の肉こそ斬ったが、すんでのところで光が半歩身を引いた為、両断まではいかなかった。
だが、重傷には変わりなく、血を流して膝を地についている。
「がはっ」
「今のタイミングで両断出来ないとは、突きの方が良かったか」
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