記憶

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 大学の一限目が終了した束の間の休み時間。  講堂の廊下は学生たちで賑わっている。  「ねぇねぇ、たかちゃん。証君…だっけ?あの人タマネギみたいだよね、髪型」  あの人とは僕のことで、証は僕の名前なんだけど、タマネギと言われるのは正直、筋違いじゃないか?  僕の数少ない友人で大学も一緒の高史。その彼女…らしい女が僕に向けて放った第一声がタマネギかよ…。 「コラ、美咲!俺の連れに失礼だろが?謝れよ」 「えーだって、マジじゃん?」 「悪ぃな証。コイツ口の聞き方なってなくて。まぁ…多目に見てくれよ」 「あ、ああ…」  マジで泣きたいのはこっちだ。別に高史が選んだ女だからどうこう突っ込む気は無いが、僕だったらこんな女、何百万積まれたって付き合わない。 「高史、次の授業、先に行くから」 「あ、おい証!良かったら今度の金曜に合コンやるんだけどお前も来ねぇ?」 「…遠慮しとく」  僕は高史のいつもの軽い誘いをピシャリと断って、さっさと次の講堂へ向かった。  今はこの福祉大学に入学して二年目の夏。  一年の時は単位を取る以外に暇だったので、スーパーのレジバイトをしながら自動車免許を取得する毎日。あとは高校から続けてるテニス部にたまに行ったり、行かなかったり。  大学へは専用バスで通学し、帰りも通学バスで帰宅するのだけど、免許を取った今、車で通えばいいと誰もが思うかもしれない。 だけど、僕は今日もバス通学だ。 そして明日からも当分はバス通学…。  その女の子の姿を見る為だけに。
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