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「証!何ニヤけてるの?さっさと洗濯物を取り込みなさい!」
「……あ?」
「だから、洗濯物!今夜は雨なんだからさっさとしてよ!」
「うっせーな。分かってるよ」
居間でファッション誌を見ながらくつろいでいた僕に、口うるさい母親が洗濯カゴを突き付けてくる。
どうやら僕は皆木さんと会えた嬉しさのあまり無意識に笑っていたらしい。
ただ、干渉されるのも癪にさわる年齢になったのか、母親に対する口調は乱暴になってしまう。
僕は手早く手伝いを済ませると、自分の部屋にこもって皆木さんの事をひたすら考えた。
皆木さんと知り合いでも何でもいいから一歩進展するうまい方法は無いか。
「……そうだ」
僕は何を思ったのか、救急箱を押入れから引っ張り出す。
そして両手の全ての指に「絆創膏」を貼り付け、次の日にあのコンビニへ向かう決心を固めた。
そうすれば、気づくはずだ。
僕は、何としても皆木さんと関わりを持ちたかったんだ。
翌日も同じ時間を見計らってコンビニに立ち寄る僕。
皆木さんはレジでチラシの切り抜きを行っていた。
「いらっしゃい……ませ」
「こ、これ下さい!」
「さ、348円になります…」
「ありがとうございました…」
僕の絆創膏だらけの指を見て、目を丸くする皆木さんだったが、それだけだった。
寿命を10年は縮めて差し出した両手に、返ってきた反応はあまりにアッサリし過ぎていて、僕は明日からコンビニに行く戦意を一気に消失した。
現実など、こんなものだ。フィクションの世界とは訳が違う。
何の前進もアピールも出来ずに徒労に終わってしまった自分に嫌気すらさした。
…だが、ちゃんとパンチは効いていたらしい。
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