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翌朝のバス停。
「あの…昨日のコンビニで、会いましたよね?」
「え?」
皆木さんからの最初の一声がそれ。
何と、僕に気づいて話し掛けてくれたのだ。
…話し掛ける。
ただそれだけの事に勇気を出せなくて、回り道をしていた僕の苦労は何だったのか?
可愛い。
心臓がドキドキして、僕は封印していた7年前の感情を取り戻しつつあるのが分かった。
清楚な肩までの黒髪にパッチリした瞳が、今はお客としてでは無く、純粋に僕だけを見ている。
「いつも朝、あたしの事見てましたよね?」
「えぇ!?いや別に僕は…」
「顔、赤いですよ?」
「うぅ…」
「えっと」
「あ、相澤証っていいます」
僕は少しテンパりながらも自分の名前を伝える事が出来た。
「相澤…証さんですね。あたしは皆木寛子って言います。地元の方なんですか?」
「う、うん。凄い近いよ。皆木さんは何処から?」
「あたしは関東の○○からです」
「凄っ!遠いね。じゃあ…」
「そうなんです。寮暮らしなんです。もう毎日洗濯と料理がタイヘン!」
「あはは。そうなんだ」
「ひょっとして…先輩ですか?」
「二年だけど…え?あ、そうか歳下」
「です。学部も同じだったりします?」
「福祉研究科だけど」
「あ、違いますね残念ー!でもお互い頑張りましょうね」
「あ、ああ。皆木さん…いや、皆木ちゃん?宜しくね?」
「皆木ちゃんはやめて下さい!」
「わ、悪い!皆木さん」
「ふふ…。はい、相澤さん」
自然な会話が繋がる。皆木さんと僕だけの時間。
皆木さんは明るくて、後輩と分かったのに緊張が解けない。
こんなやり取りから、関係がはじまった。
コンビニや、眺めているだけでは永遠に得られなかったモノが存在する。
これは僕の紛れもない片想い。
高史みたいなチャラチャラした付き合いが好きなんかじゃ無くて。
不器用な僕と、笑顔が可愛い皆木さんとのスタートラインなんだ。
だから僕は、この出会いから目を背けたくないと思っていた。
答えなんか今は要らない、欲しくない。
けど、僕は僕なりに少しでも変えたかったのかも知れないな。
ネチネチ考えてばかりだった自分と決別する為に…。
そんな中…。
目を疑ったさ。
耳を疑ったさ。
あんな事件が、起こるなんて。
to be contend
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