はじめに

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私は一計を案じた。 その夜。 主人がいつも通り、ごご8時過ぎに帰ってきた。 「ただいま~。」 少々疲れた感じだった。 「お帰りなさい。明日はお休みだったよね。晩酌、用意しておいたわよ。」 その頃、店を出すための切り詰め生活のため、主人の休み前の夜だけ晩酌をしていた。 そして主人もそれを楽しみにしていた。 だが帰ってくるなり主人は溜め息をついた。 「どうしたの?まだ将棋盤?」 「当たり前だよ。」 「しょうがないじゃない。お父さんも出しっぱなしにしていたのが悪いんだし。」 主人はまた溜め息をついた。 「だからね。」 私は言った。 「レティは捨ててきたわよ。」 「えっ!?」 主人は驚いた顔をした。 「だって、あなたの大事なものを噛んじゃったんでしょ?」 「そ、そりゃそうだけど……」 主人は少し落ち着きがなくなっている。 「な、なあ、本当に捨ててきたの?」 「どうして?あなただって怒っていたでしょ?要らないんじゃないの?レティなんか。」 主人はそわそわし始めた。 「で、でも捨てなくても……いいかなって……」 主人の声はだんだん小さくなる。 そのうち、すっかり項垂れてしまった。 私はその姿を見ると、ニヤッと笑っておもむろに押し入れを開けた。 「お父さん。」 「……ん…?」 主人がしょんぼりとして顔を上げた。 そのとたん、 「レティ!!」 押し入れの上の段の布団の上にレティが座っていた。 「よしよし。よく吠えなかったね。」 私はレティの頭を撫でた。 「お前、どうして……? 捨てたって……」 主人は驚いて私とレティを交互に見る。 私はレティを抱き上げて押し入れから下ろすと言った。 「捨てたって言うのは嘘。でも、そこであなたが知らん顔するようなら、本当に誰かにあげようと思ってたの。」 「レティ~!ごめんよ~、もう怒らないからな。」 主人はレティを抱くと頬擦りをしながらそう言った。 「レティもお父さんにごめんなさいして。」 「くぅーん」 レティは主人の口元を舐めた。 「レティ~」 これ以後、レティも主人にさらに忠実になり、主人もまた一層可愛がることになった。 .
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