115人が本棚に入れています
本棚に追加
私は一計を案じた。
その夜。
主人がいつも通り、ごご8時過ぎに帰ってきた。
「ただいま~。」
少々疲れた感じだった。
「お帰りなさい。明日はお休みだったよね。晩酌、用意しておいたわよ。」
その頃、店を出すための切り詰め生活のため、主人の休み前の夜だけ晩酌をしていた。
そして主人もそれを楽しみにしていた。
だが帰ってくるなり主人は溜め息をついた。
「どうしたの?まだ将棋盤?」
「当たり前だよ。」
「しょうがないじゃない。お父さんも出しっぱなしにしていたのが悪いんだし。」
主人はまた溜め息をついた。
「だからね。」
私は言った。
「レティは捨ててきたわよ。」
「えっ!?」
主人は驚いた顔をした。
「だって、あなたの大事なものを噛んじゃったんでしょ?」
「そ、そりゃそうだけど……」
主人は少し落ち着きがなくなっている。
「な、なあ、本当に捨ててきたの?」
「どうして?あなただって怒っていたでしょ?要らないんじゃないの?レティなんか。」
主人はそわそわし始めた。
「で、でも捨てなくても……いいかなって……」
主人の声はだんだん小さくなる。
そのうち、すっかり項垂れてしまった。
私はその姿を見ると、ニヤッと笑っておもむろに押し入れを開けた。
「お父さん。」
「……ん…?」
主人がしょんぼりとして顔を上げた。
そのとたん、
「レティ!!」
押し入れの上の段の布団の上にレティが座っていた。
「よしよし。よく吠えなかったね。」
私はレティの頭を撫でた。
「お前、どうして……?
捨てたって……」
主人は驚いて私とレティを交互に見る。
私はレティを抱き上げて押し入れから下ろすと言った。
「捨てたって言うのは嘘。でも、そこであなたが知らん顔するようなら、本当に誰かにあげようと思ってたの。」
「レティ~!ごめんよ~、もう怒らないからな。」
主人はレティを抱くと頬擦りをしながらそう言った。
「レティもお父さんにごめんなさいして。」
「くぅーん」
レティは主人の口元を舐めた。
「レティ~」
これ以後、レティも主人にさらに忠実になり、主人もまた一層可愛がることになった。
.
最初のコメントを投稿しよう!