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「ふふ、やはりそのほうが君らしい。僕にそこまで言うのは君くらいしかいない」
微笑むと、前振りもなく、すっと身を翻す。彼の背後から、私の仲間が刃を振り下ろしていた。
予知していたのか、刃は彼を掠めもしない。
魔王は指先で空に何かを描き、飛ばす。それだけで、仲間は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
死んではいない。息がある。
「長々と立ち話をしていると、こうだ…。さて光神、君に頼みたいことがあるんだ」
その内容は私の予想とは違っていた。
『神』である私に託すことではない。むしろ魔物たちの役目ではないだろうか。
訝しんで眉をひそめた私に笑いかける魔王。
「頼んだよ、光神」
問いつめる間すら許さず、その言葉を最後に、彼は暗闇に溶けるように消えた。痕跡は何一つして残っていない。唯一、彼を背後から襲った仲間が横たわっていることで、先ほどまで彼がいたのだと認識ができた。
彼が私の名を思い出させてから、それをきっかけとし、記憶も元に戻りつつあった。
この戦いの始まり、ここまで拡大した理由、『悪魔』となった『魔人』、『人』…そして私が記憶をなくしていた理由も。
まだ魔術の支配下にあるが、使命を与えられた今、術にはまるわけにはいかない。気を抜けば失いそうになる『私』の意識を、しっかりともつ。
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