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『真っ赤なオレンジ』
少女は森に迷い混んでしまった。
見慣れない景色に怯えた。
辺り一面が緑だった。僅かに太陽が覗く空もドアが閉ざされてくように少女には緑に隠れてしまって見えた。
時々咲いている花さえも緑と同化して見えてしまう有り様で、その緑も不安という風船が膨らむにつれ深緑に変わり、最後には何かに飲み込まれるように辺りは真っ暗になっていた。
その暗さは道さえ消した。
少女は真っ直ぐと走り続けるしかなかった。しかし、出口は見当たない。
「見えないだけかも知れない」という不安が少女を襲う。
静寂の静けさの中、土を踏む少女の微かな靴音だけが存在感を示す確かなもので、少女は出口のない迷路で迷子になった気分だった。
次第に目からは涙が込み上げる。
少女は涙を拭うため立ち止まった。しかし、止まるどころか治まらない。閉めるどころか蛇口を開いてしまったみたいに。閉めた方すら忘れてしまうくらい涙が溢れ出した。
気付いた時には少女の足元に水溜まりが出来ていた。
水溜まりはどんどん大きくなっていく。時々辺りを見回すが、何処を見渡しても真っ暗だ。その絶望感でどんどん大きくなっていった水溜まりは、気付いた時に湖に
少女は湖を泳いだ。生きるためには泳ぐしかなかった。
だけど少女は泳げなかった。
それでも泳いだ。何に涙してたのかさえも忘れるくらい必死に泳ぐしかなかった。
「死にたくない」
ただその一心で。
そんな少女を見て空が泣くように雨を降らせた。
少女にとっては顔を見せない空が降らせる雨は、痛みさえ覚える優しい雨だった。
それを見て更に顔を見せない空は泣いた。靴が流されていったことも気付かせないくらい、雨の音だけが一気に強くなっていく。
強くなるにつれ少女は泳いでるのか流されてるのかさえ分からなくなっていた。
だけど少女は前に進むしか術がない。
立ち止まることさえできなくなった少女はそこで初めて気付いた。
なぜ森に迷いこんでしまったのか。
「それは真っ赤なオレンジをかじってしまったからだ」
そう気付いた時、まるで朝開いたカーテンから射しむ光のように、湖よりも大きな太陽が顔を覗かせていた。
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