愛は突然に

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「殿!!いけませぬ!!殿に死なれては某、何を糧に生きてゆけばよいのですかっ…!」 「お前は俺なんかのために死んじゃいけない。俺はお前の主で、この里を納める身…俺はお前もこの里の民も大好きだ。だから守らなければならない。例え死ぬと解っていてもだ。愛する者を守る…それが愛だ。」 殿と呼ばれるその男は愛一文字の兜を愛する従者に被せると、炎の向こうへ消えていった。 「殿ぉ!お戻り下され!殿ぉ!」 「ひぃっ!!」 朝日が差し込む部屋の中で、それが夢だったと気づくのに5秒もかからなかった 「またこの夢かよ…」 この夢をみたのは1ヶ月ほど前である。なのにいまだ見続けているのは何かの暗示だろうか。 流石に嫌気がさしてきて思わず呟く。 ベッドから体を下ろし、朝食をとるために1階のリビングへと赴く。 階段を降りる途中から何かを刻む包丁の音と、味噌汁のいい香りが空腹な気持ちを増幅させる。 「あら。自分で起きてくるなんて、何年ぶりかしら?」 包丁を刻みながら自分の母である愛美(まみ)が毒づく。 「最近変な夢ばっかでさ、おちおち寝てらんないぜ。」 質問に答えながら椅子に座り、ふとテレビに目をやる。 今日は雨は降らないそうだ。 「それってどんな夢?」 「誰かが行かないでくれーって言ってんのに言われてるそいつは行っちゃう夢。」 「へぇー。そんな夢なら気に病むことなんてないじゃない。何が不満なのかしら?」 愛美がご飯と味噌汁をテーブルに並べながら再度問う。 「別に。ただ、何回も見るんだよ。そのシーンを。」 味噌汁をご飯にかけ、少し熱いがかきこむ。 「それは変ねぇ…ま、気にしたら負けじゃない?今気にするのは、時間だもの。」 言われるがまま時計を見るといつもの出発時間の10分前だった。 「なるほどね。ごちそさま。」 そう言って箸を置くと、学校に行く準備をするため2階の自室へと足を運ぶ。 制服を着ながら今日持参していく物を確認していると、 「弁当机に置いとくわよー。」 と聞こえてきた。 心の中で返事をしたあと、洗顔その他諸々のために洗面所へと出向いた。 鏡を見ると、見慣れた自分の顔と見慣れない寝癖を発見した。 そんなことは気にも留めず口内と顔面を洗浄したあと、2階へとんぼ返りして鞄を背負い、玄関へと向かった。 「いてきまー。」 ちゃんと鍵を閉めて家を出た。
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