阿求の記録

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  その後も滞りなく議題は進行し、次回までに各自競技種目を考えるという結論で今日の会議は終えました。 競技種目という言い方をすると、なんだか外の世界の運動会と呼ばれるもののようです。 外の世界……偶に迷い込んでくる外来人の話によると、そこには妖怪等は存在せず、人間は河童のように機械を駆使し、社会を形成しているみたいです。 ビルと呼ばれる高層建築物や、便利な乗り物の数々……話を聞けば聞くほど、興味深いところです。 一度、この目で見てみたいものです。 八雲紫は、スキマを使って私を自宅まで送り届けてくれました。 そして私は今、こうして筆を執っています。 名だたる妖怪たちによる、最高級かつ最高峰の異変、もといお祭り。 今までの歴史書を読み返しても、恐らくこれほどまでに豪華な大事件はなかったでしょう。 まだ始まってもいないのに、私の胸は高まる一方です。 普段歴史書を執筆する際、私は私情を一切挟まずに事実のみを淡々と書いていきます。 ですが今回の事件ばかりは、日記のような形で私情をふんだんに挟み、書き上げたいと思っています。 理由の一つは、私自身がこの事件に深く入り込みすぎてしまっているからです。深入りしすぎていると、私情を挟まずに書くことはとても困難になるのです。 そして、もう一つの理由。 それは。 私のこの興奮を、ワクワク感を、緊張感を、読者の方々にも感じて頂きたいからです。 私情を挟むことによって歴史的史料としての価値、つまりは信憑性が下がってしまいます。 歴史書としては致命的なその犠牲を払ってでも、私はこの心情を書き入れたいのです。伝わってくれれば幸いと思いながら。 さて、明日も早い。 夜も更けてきたところで、今日はそろそろ就寝するとしましょう。
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