47人が本棚に入れています
本棚に追加
『体は大丈夫かい?』
もう一人の男が、優しく囁く。
すると、固く閉じていた目をうっすらと開き、声の主を探そうとする。
しかし目が見えないのか、諦めたように溜め息をつき、動かしていた瞳を空に向けた。
「ああ。私は、もう死ぬのだな」
男は何も答えない。
「いいんだ。自分が一番分かっている。それに、私は死を待ち望んでいたのだから」
『君は死を望んでいるのかい?』
「この世界には何も無くなってしまった。人間はとても愚かな生き物だ。
何百年も前にあった核戦争による放射能の影響で、生き物の遺伝子が傷つけられてしまった。
人だけではない。鳥も、魚も、植物も……。
壊れた遺伝子は、元に戻ることはない。新しい命が産まれぬ世界になり、人々は僅かに残った物を取り合った」
そこで力なく息を吸い込み、そして微かに肩を揺らし笑った。
.
最初のコメントを投稿しよう!