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「そうか。んじゃ、とりあえずお前の分な」
そう言って花束から数本の花を抜くと、アランは抜いた花を少年に渡した。対するシュバルツは困惑した様子を見せ、青年の顔を見つめて言葉を発する。
「渡されても、俺のうちに花瓶なんて無いよ?」
それを聞いたアランは一笑し、それから花束を肩に乗せた。
「俺んちにもねえよ。これは、可愛い子に貢ぐのさ」
そこまで言ったところで、アランはそっと片目を瞑る。
「お前も、誰かにやりゃあ良いだろ」
その提案を聞いた少年は溜め息を吐き、どこか気怠るそうに言葉を返した。
「俺に、花をあげる相手なんて居ないよ。とりたてて親しい知り合いだって居ないし」
その返答を聞いたアランは細く息を吐き、それから自らの考えを付け加える。
「だったら、たまには墓に行って供えてやれよ。お前以外に、そんなことする義理の有る奴は居ねえんだし」
アランの話を聞いた少年は目を丸くし、手を胸の位置に上げて数本の花を見つめる。この際、赤や橙色の花はアランからシュバルツの顔を隠してしまい、青年がその表情を窺い知ることは出来なかった。
「うん。そうだよね……俺くらいしか、だよね」
呟くように返すと、少年は細く長い息を吐く。
「じゃ、これから行ってくるよ。アランも、花が萎れないうちに……さ?」
言うだけ言って、シュバルツはアランに背を向けて歩き始める。一方、青年はそんな少年の背中を見送り、暫くしてから歩き出した。
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