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罵倒された。
悲痛な叫びを聞いた。
どうして守ってくれなかったの、と。
あの子を返して、と。
ただ立ち尽くし、頭を下げて、それらを聞いていることしかできなかった。
「ごめんなさい」と何回も溢したところで、一体何になるというのだろう。彼らは決して許しに来たわけではない。彼らはただ、悲しみと怒りをぶつけに来ただけなのだから。
前森 輝樹(サキモリ テルキ)は顔を歪めた。怒りや苛立ちによってではない。自身の不甲斐なさによってだ。自分がもっとしっかりしていれば、こんな事態は避けられたのかもしれない、と。
夏休みのある日、輝樹は一度に友人を二人も失った。一人は連れ去られ、もう一人は瀕死の重体で、今は植物状態になっている。
輝樹は二人がそうなってしまった、まさにその現場にいた。それなのに、何もできなかった。たった一人の犯人に安々と犯行を許し、逃してしまったのだ。二人の“両親”にどれほど罵詈雑言を浴びせられようと、文句の言えない立場だといえるだろう。
もちろん、大人達とて輝樹にあたったところでどうにもならないことは承知している。しかし、彼らのやりきれない思いは、輝樹以外にぶつけるあてがないのだ。
これから輝樹にできることは、たった一つ。件の犯人を追い詰めて、拐われた友人を取り戻すことだけだ。
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