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「部屋までお送り致します、参りましょう姫」
「ええ……」
二人は僕に背中を見せると、そのまま来た道を戻るように進み始めた。
「……そういえば、突然の事でお名前を聞くのを忘れていました」
だが、途中で皇女様は立ち止まり、顔を振り向かせる事無く僕にそう問う。
「……僕はユウイチ=シンドウと申します」
「そうですか……それでは、また」
それだけを言うと再び歩を進め、僕の前から二人共いなくなった。
「隊長ー……隊長! 聞いてますか?」
「いや、聞いてない」
「聞いてるじゃないですか」
訓練の休憩中、訓練所のベンチでぼーっと座っていると僕に対し、ルーネが目の前で手を両膝に置き、少し屈みながらそう呟く。
あの日、皇女様と出会ってから一週間が過ぎた。
皇女様と別れた後、見張りの兵に見つからないようこそこそと孝一のいる元へと戻り、事の事情を話すと孝一に「ユーは馬鹿ですか?」とめちゃくちゃ呆れられた。
だがその代わり、孝一の推測でまた新しい可能性を掴む事が出来たのだ。まず、皇女様が戦争を起こそうとしている可能性がほぼ無いに等しいという事。
もし皇女様が夢世封書に書かれていた通りの事を企てているなら、まず間違いなく事の計画を目の前で暴露されて心中穏やかになる訳が無く、僕を殺そうとするだろうと孝一は推測した。
兵を呼べば、僕を不審者として捕らえて口封じも出来たはずだ、なのにも関わらず僕を殺す所か皇女様は意図的に逃がした。
皇女様が戦争を企ててないと決定に至る情報となったのが、皇女様がまだ幼い少女だった事だろう。
孝一が言うに、そんな幼い少女に戦争を起こしてまで国を統一しようと図る汚い心はないとの事。孝一がロリコンなのが良くわかった瞬間だった。
「ここ一週間、なんか元気ないけど……大丈夫?」
ルーネが僕を心配そうに見つめ、熱がないかどうかデコに手を当ててくる。
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