第四項目 戦火

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「熱はないと思うよ……ちょっと今思えばとんでもない人物にあったなって考えてただけだから」 「……? 誰に会ったの?」 「皇女様」 「ふーん皇女様……うえええええええ!?」  耳元がきーんとなるくらい大きな声でルーネは驚きの声を上げた。あの日……皇女様の名前を調べ、エミリス=ブロウネットと意外と普通の名前をしているのだが……その名前をこの国で知らない人はほぼいなかった。  名を口にするだけで会話の内容が皇女様の話題に変わるくらいの人気ぶり、そりゃ僕がこの国の人間でないのが一瞬でわかるのも頷ける。 「おい隊長……そろそろ訓練を開始しなくていいのか?」 「あ、そうだねベインさん、ごめん」  僕は大きな声を上げた後硬直を続けるルーネの頬をつついて起こし、隊員に訓練の再開を指示する。  ……正直あの日皇女様に会った事に僕は何も気負ったりしてはいない。むしろ良い情報を手に入れたと言ってもいい、だけど……あの日は僕はもう一人の重要人物にも出会っていた。  それはこの国の人間の英雄……ハロルド=バリク、あの日皇女様を迎えに来た金髪オールバックの騎士は、この国の英雄だったのだ。  もしも……僕があの二人がいる場であの話をしていたら? もしもその場にいなかっただけで裏であの話を英雄が聞いていたりしたら? そうだとしたらもう黒幕を絞る所の話じゃなくなる。  それがずっと不安で仕方がないのだ。 「む、ここにいたかシンドウ従長!」 「っは! お疲れ様ですハロルド様!」  そして……その噂の英雄が、何故かあの日以来僕を気に入ったのか、やたらと訓練中とかに接触して来るのだ。  何でも最近の若い新米兵士にしては見所があるとかなんとか。  気に入られるのはいいが、それが僕を警戒してなのか、期待してなのかがわからないため、余計にびくびくした生活を送っている。 「それでハロルド様、一体どういったご用件で?」 「街の方で暴動が起きた、魔族の連中が民家に火を投げ込んだそうだ」 「またですか……」  そしてこの一週間で魔族と人の関係は更に悪化し、所々で過激な暴動が巻き起こるようになり始めている。
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