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「余所見してたら……危ないぜ!」
ベインに顔を向けていた僕に、木で出来た棍棒をすぐ横で振りかぶっていた魔族の一人が叫んだ。
……あ、やばい。
「全くだ、同感だぜお前」
もろに攻撃を受ける事を覚悟した瞬間、棍棒を振りかぶる魔族の背後からダンディーな声が聞こえ、次の瞬間……
「がっ! な……ん?」
魔族は地面へと倒れこんだ。
「ま……マスター!」
「ようユウイチ、お勤めご苦労さん」
倒れた魔族の背後に立っていたのは、店に置いてあるモップを持ったマスターだった。
「マスターがどうしてここに……?」
「ケイトも来てるぜ」
マスターが指差した先には、他の人と一緒になって子供や負傷者を誘導するケイトの姿があった。
「一応ご近所さんだからな、襲われてるのに助けないなんて事する訳にはいかないだろう?」
言われて気付いたが、ここはマスターの経営する酒場の近辺だった。なるほど……マスターの酒場には魔族の連中も通っていたが、それは純粋に魔族の住む区域に近いという理由もあったのか。
となるとマスターの酒場も結構これから危なくなってくる……つまり僕が危険な目に。特に夜とか。
「ユウイチ君! 無事だったのね!」
途中、マスターと一緒にいる僕の姿が目に映ったのか、ケイトが僕の元まで走り寄って来た。
「無事って……それ僕の台詞なんだけど」
僕は助けに来た応援部隊なんですが。
「もう……一体どうなってるの? ついこの間まではぴりぴりしてたけどこんな過激な事したりしなかったのに」
ケイトのような一般人の観点からすればやはりそうなるのだろう。実際、人も魔族もお互い何かをした訳ではない。
僕が知っている記憶の中でも、ちょっとした揉め事があったのはマスターの酒場内での一件だけだ。誰かが良くない噂を流している……それもこうやって争いを起こす程に。
魔族と人は区域が別れている。お互いが見えない場所でお互いに嫌な噂を聞き続ければ怒りは当然自然に高まっていく。
パソコンのインターネットで、よく掲示板等に誹謗中傷を書き込むのと同じだ、誹謗中傷の中で勝手に話が盛り上がり、拡大していく。
これが性質が悪く、一度炎上すれば鎮める事は難しい……っと孝一が言っていた。
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