子育ての定義

8/21
116人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
私はぐるぐると現在進行形で混乱する頭をまわして考える。 そうしていないと気絶するほど緊張していたからに他ならないがしかし、 自分の中で答えはすでに出ていた。 ―自分は死人。 そして閻魔大王さまの前に連れてこられて『用』だと言われれば、そう。 ――天国に逝くか地獄に落ちるかの審判しかない。 震える体を制し、すがるように隣を見ると先輩はにやにやと笑っていた。 その表情で、私の考えは確信に変わった。 ―そうですか、そういうことですか、先輩。 私を閻魔様に会わせて、正式に地獄に落とそうってそういう魂胆ですね。 人を殺しといてさらにどん底に貶めるなんて、なんて意地の悪い。 大体もともと接点なかっただろうが、バカ野郎。 …ああ、まったく。 普通の日常を送っていたはずなのに、何をしでかしたらこんな事態になるのだろうか。 思い当たる悪事といえば優先席に率先して座ることとか、 落ちている100円をこっそり自分の財布に仕舞ってしまったことくらいしか覚えがない小市民なのに。 「――い、おい、聞いているのか。」 「あ、す、すいません!」 私がこうなるんだったらいっそ仏壇の饅頭も食べたらよかった、 とくだらないことを考えていた矢先、閻魔大王が声をかけてくる。 彼はびしっと居住まいをなおした私に呆れたように頬杖をついたが、 「それで、早速だが。」 「―はい!」 すっと彼の表情は真剣になった。 私も、身体をこわばらせる。 ―やっぱりこれはあれか、もう判決が出るか。 ふう、と緊張に息をこぼす私。 …しかし、私は元々無理やり連れてこられた者だ。 申請しておけば少しは判決の融通をきかしてくれるのではないか? 「…閻魔様。」 思い立った私は、ぽつりと小さな声で大男に呼びかける。 .
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!