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「…まーいいや。今から行くところだっけ?」
「そ、そうです!」
「そりゃ、決まってるでしょ。あそこ。」
「え?」
やけに面倒くさそうに答える男が心底ムカツクが、
まあ答えてくれるだけマシかと思いながら、私はぱっと顔を上げて彼のその指の先を仰ぎ見る。
―地獄だというこの場所の空は、血のように赤い。
そしてそれより遥か上空には闇と光が混じった不思議な色合いの空間。
まるでなんかの境界線のような――?
「この地獄の王様の所に、だよ。」
彼はこともなくそう言うと、私が結論を出す前にばさりと音を立てて翼を開いた。
******
「さて、着いたよ。」
「…………!!」
先輩の真黒い翼で赤い空を飛空し(ここでようやく彼が悪魔だということを再確認した)、
朱色の柱が立ち並ぶでっかい社を通り過ぎ、現在。
どどんっと威圧感のある大きな扉の前で、立ち尽くす私。
両端には屈強な鬼の門番が槍を構えて立っていたので、私は目をあげることができずガクブルしながら俯いていた。
今できるのは、隣で先輩が何やら門番に声をかけているのを盗み聞くくらい。
…何だろう。この、もういっそ気絶したくなるような緊張感は。
つーか待ってよ、先程の説明でも全然不十分だったんですけど。
まだ私が何故こんな所に拉致されたのか聞いてないんですけど。
でもこの人(?)、質問受け付けてくれないっぽいし、あんまり聞きすぎると食われるかもしれないし。
…随分と不親切な案内人だなあ、全く。
内心で不満をつらつらと並べていると、
どうやら先輩の手続き的なものが終わったらしく、
『入れ』と中から重い声が響き、重厚な扉が自動的に開いた。
…ここにいる人たちは思考する暇すら与えてくれないらしい。
私は先輩にせっつかれ、これまた豪奢な部屋の中へと歩みを進めた。
…あ、上手く歩けないと思ったら足が震えてるわ。
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