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よたよたと生まれたての小鹿のような足取りで部屋の赤いカーペットの上を歩き、中心で立ち止まる。
―広い広間の中央、
玉座に座っていたのは赤黒い着物を着た、髭面の大男だった。
どことなく粗暴で荒っぽい感じがするが、その風貌は凛々しくまさしく王と呼ぶにふさわしい感じ。
その存在に圧倒されていると、男の大きな目がぎらりとこちらを見下した。
「…デレクよ、それが例の。」
「いかにも、そうです。」
「………。」
先輩が恭しく頭を垂れ、礼をする。
大男の方は私をじっと見つめた。
…何を凝視しているんでしょうか。
見てもそんなに価値はないですよ、私。
ああ、しかしプレッシャーがホントに半端じゃないわ。
流石は地獄の王様らしき方。
…
……あれ。
地獄の、王様?って、もしかして。
「よくぞ来た、人間。…いや、今は死人か。儂は第5142代悪羅王だ。」
「…あくらおう?」
「そうだな、人間どもは閻魔大王と言っていたか。」
「!!」
びしっと顔に戦慄が走る。
…え、えんま、さま?
って死んだ人を死後天国に送るか地獄に落とすかを決定する、あの?
昔、本で彼についての逸話を読んだことがあるが、
その挿絵がとても怖くて、できれば一生会わずにいたいと子ども心にも思ったものだ。
…あ、そうか。私は、その『一生』が終わったからここにいるのか?
私は改めて自分がもう死んでいるということを再確認し、やるせない気持ちになった。
そして、浮上してきた次なる疑問。
―すなわち何故、今、閻魔様の前に立たされているのかということ。
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