子育ての定義

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「む、何だ。」 閻魔さまは発言を止められたからか、少し不機嫌そうにこちらを見下した。 私は若干緊張しつつも、 ここで言わなければ自分の今後が勝手に決まってしまう、と自分に言い聞かせ、口を開いた。 「現世で何が悪かったか知りませんが、地獄に落とすんだったら一番痛くないところにしてください。」 「…は?」 私が彼の眼をまっすぐ見てそう言うと、閻魔様は目を丸くした。 「地獄に落とすために呼んだのでしょう? 私は自傷主義でもなければドM属性もない一般人です。針地獄とか釜ゆでは遠慮したいのですが。」 「………。」 私が切実にそう言った途端 ……何故か爆笑された。 部屋が揺れるほど豪快な笑い声。 わあ、閻魔さまって笑い上戸なのね。 …って違う。何でだ。 こっちが腹くくって(ヤケになって)申し出たっていうのに、急に何なのこの人。 しかも隣に立っている悪魔まで笑ってるってどういうことなの。 あれ、よく見りゃ門番の人たちも肩震わせてるじゃない。 …ウケ狙いのつもりはなかったんだけど。 地獄って笑いの沸点低いのかな。 「…くくく、違うぞ、死人よ。」 「え?」 「そなたをここに呼び出した理由を聞いておらんのか。」 「…はい。」 悪魔にはぐらかされましたが、なにか。 だから詳細なにも聞いてないのよ、私。 おいこら、隣でまだ笑ってるお前のせいだよ、お前。 ギロリと先輩を睨む私に、なんとか笑いを抑えた閻魔様は『では教えてやろう』と前おいた。 顔を上げて目を合わせると、打って変わって真剣な表情が私を見下している。 私はごくりと唾を飲み込んだ。 「そなたに、儂の息子を育ててほしいのだ。」 「―は?」 ―が、私が身構えつつ待った言葉は、 その仰々しい表情とはまったく合ってなかった。 むしろ、真逆。 まさかの依頼に、私は思わず気の抜けた返事を返してしまった。 .
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