結婚の定義-sideアディル

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『見つけた』 はじめて貴女に会ったときから、俺はずっと、貴方だけを見てきた。 絶対に、逃がしはしない。 ********** 「アディル様、こちら、審判の門行き人間の年間数調査リストです。」 「ご苦労。そこに置いておけ。」 「若様、釜ゆで地獄の子鬼が薪にかかる税が高すぎると抗議に…」 「またか…懲りないやつだ。いい、後で行くから待たせておけ。」 地獄第332階層。悪羅王の執務室内。 広い部屋の中では様々な地獄生物が行きかい、書類や伝言を残す。 その中央で俺、アディル=オルクール=デルンブルクは巨大な机の前に座り、仕事をこなしていた。 表向きには親父の補佐、ということになっているが、実際はもうほぼすべての雑務を担当している。 親父の奴が全部押しつけていくせいだ。 …あの狸ジジィ、それならとっとと位を譲って隠居でもしたらいいのに。 「―そうだ、ニーアは今どうしている?」 全く減らない仕事のヤマに嫌気がさし、鬱憤晴らしにそう聞いてみる。 「ああ、ニーア様ですか。少しお待ちください。」 すると傍の蛇男はすぐに『呪』を展開し、居場所特定の操作を始めた。 俺は無表情の顔を少しだけ緩め、その様子を眺めていた。 ―ニーアとは、俺の育て親である女性の名前だ。 元は人間だったが、人間界で命を落とし、今は死人として地獄に住んでいる。 だが―実は、悪魔に頼んで魂を運ばせ死人としてこの地獄に縛り付けたのは、他でもないこの俺だ。 幼い頃から強大な力を持つ俺をなだめるために、親父は無理矢理彼女を召喚したのだ。 そんなガキの我儘に付き合わせて、 ニーアに現世での生命を失くさせてしまったのは非常に申し訳ないと思う。 しかし、手を伸ばせば触れられる距離にニーアがいる、と単純に喜びを感じたのも事実だ。 ―そう、俺は最初から彼女に恋をしていた。 もう離れられないくらいに。 .
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