107人が本棚に入れています
本棚に追加
溢れる音、人の波…………。
街の雑踏の中、一人のスーツを着た男がベンチに座り俯いていた。
彼は人生に疲れ、何かの支えがなければ生きていけなかった。
ただ……彼には何も信じられる物がなく、それ故、絶望の淵に立たされているのだ。
「俺は、人から馬鹿にされ、けなされ、家族でさえ空気のように扱う」
苦し気に小さく呟く声は、街の音に消され、誰も気付くことはない。
彼は、黒田 増雄。今年で五十五を迎える会社員。
この年なのに係長から上がれず、大きな仕事を任される事もない男を、若い社員達はお荷物のような目で見る。
『お前は必要がない』と。
.
最初のコメントを投稿しよう!