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ぽろぽろと涙を溢しながら納得がいかないと訴える。
「せやけど……そんな酷いこと……」
飛高はそっと春香の肩を抱き寄せ親指の腹で涙を拭う。
拭っても拭っても感情の高ぶってしまった春香の落涙は止まらない。
それを視界に収めて日和は気まずそうに一度は唇を引き結ぶが、結局は母の涙は見なかったことにして、弟たちの先を見据えた上での判断を曲げることはしなかった。
「母上……見守りましょう……今は」
ただ口調は僅かに柔らかくして懐柔にかかる。
「記憶が戻る保証はあるん?」
痛いところを突かれ日和は顔をしかめそうになるのを堪える。
先程から日和と春香のやり取りをただ静観している飛高を若干恨みたくなる。
こういう時……つまり春香の機嫌を損ねそうな事態には飛高は極力口を挟まない。
大局を見ているのだと彼は言うが絶対違うと日和は確信していた。
「今はまだ何とも」
「……何でこんなことに?そんな状態で芙蓉を傍に置くんはあまりに不憫よ」
「ですが、私は朔と芙蓉の絆に賭けたい。朔は絶対思い出します」
力強く言う日和の言葉に春香は素直には頷けなかった。
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