例えて言うのなら、回らないドアノブのようだ

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「……どこか痛むところは? 保健室とかにいっても……って、おい?」 いつも通りに、自分でも構いすぎだと思えるくらいのおせっかいをしようとしていると、雪乃はその声も聞かずに廊下を走りだした。 「走るとまたぶつかるぞー。気をつけろよー」 「……おー。ゆうやんのおせっかいは氷の乙女にも適用されるみたいだにゃぁ……」 「……氷の乙女?」 「ゆうやんも知ってるっしょ? あの子の状態というか、学校での態度」 「…………」 雪乃音芽は、不良ではない。 背もちっこいし、運動神経もほどほどに悪いし、テストはいつも上の中。 だけれど、彼女には『あれ』がある。 「……俺もあの子と話したことはないんだにゃー……」 あのヘッドホン。 授業中だろうと、どんな時だろうと身に付けているあのヘッドホンが、かなり浮いているのだ。 しかもいつも音楽を聞いているので、声をかけても反応無し、ボディランゲージでの交流を試みたやつもいたみたいだ。 あの無機質な瞳に貫かれて、撃沈したのは言うまでもない。 「秋人もか。俺もだ」 「いやいや、それ以前にゆうやんが女の子と話しているところを俺は見たことないんだが?」 無反応、無表情、無言。 いつしか付けられた呼び名は、『氷の乙女』。 音芽と乙女をかけた呼び名で、俺も最初は上手いなとか思っていた。
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