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「おやおや、誤解があるようですね、田辺ガラパゴスさんに尾南ハチ君」
三本松ススムが独特のぬらりとした声で揶揄するように言う。
髪をかきあげる仕草で上体を起こすと、年齢不詳の――だがおそらくは二十代のどこかだと思われる、不健康に青っ白く、頬骨の張った痩せた男の顔が現れた。
いよいよ、カブトムシのシルエットは完全に崩れ、奇怪な鎧を纏った人のそれに成り代わる。
右腕にはカブトムシの頭部。
勇猛なる一本角が剣のように設えられている。
二本の角がある胸部は曲面を描く爪付き盾のごとくそのまま左に装着されている。
いかにも強固そうに鈍い光を反射している鞘翅は肩から背中を覆う。
腹部、脚部などもすべてが無駄なく利用され装甲と化していた。
だけど強そうな装甲に比べて術者の貧弱さが目立つな。
「まず、悪趣味ではありません。まあ、ワタクシの甲虫装甲の洗練された機能美は第一世代の方の野暮ったいセンスでは理解できないのかも知れませんがね」
「いや、悪趣味って言ったのは虫の死骸を着込むってトコで、ソコじゃねえんだけどな。まあ見た目もダサいっちゃあ、ダサいが」
「そこも誤解ですよ。これは死骸ではありません。生きています。死んでしまってたら、虫の持つ筋力を利用できないじゃないですか。これだから頭の働きの鈍い第一世代は……」
いかにも小馬鹿にした様子で三本松ススムはため息を吐いて見せるが、あまり様になっていない。
やれやれとため息を吐かせたら、その嫌味度でガラ師匠の右に出るものはそうはいない、とオレは思う。
まあ、オレに対してだけかもしれないけど。
って、第一世代って何だ?
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