襲撃

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たしかにダメージを負っているようには見えないな。 ダイダラオオカブトの外殻の成せる防御力か。 顔に当たったように見えた攻撃も、咄嗟に背けて面当て部分で防いでいたらしい。 「今度はこっちからいきますよ……」 言うとヤツは膝を折り、屈み込むような姿勢をとった。 瞬き一つの間のタメの後、弾丸のような勢いで飛び出した。 ――疾い。 オレには目で追うことすらできない。 急襲し、前方に突き出した右腕の一本角がガラ師匠の胴体を突き破った――――かに見えた。 でもガラ師匠も、すでに元の位置にはいない。 すり抜けるように敵の死角へと踏み込んだガラ師匠の攻撃。 「しっ」 ガンっ 苦無がススムの背を打つ。 先端からごく短い位置で握り直されていた縄。 リーチを極端に短くした縄苦無。 一撃に掛かる時間はちょうど一呼気分ほどか。 「しっ」 ガンっ 「しっ」 ガンっ 「しっ」 ガンっ ススムが空振りに終わった超高速の突きのモーションから体勢を立て直せないうちに、ガラ師匠の攻撃が立て続けに打ち込まれてゆく。 雨粒のように降る攻撃に顔を両腕でかばいながらじっと耐え、足を踏み直し、少しずつ上体の位置を動かしていたススムの動きがあるところでぴたりと止まった。 ごうっ まるで死そのものとも言えそうな黒い双角が一気に振り上げられた。 紙一重、だ。 ガラ師匠は反らした上体を戻すことなくそのまま後ろに倒れこむかのような動きで攻撃を躱す。 そのまま足は地を離れぐるんとバク宙。 身軽だ。 外見に似合わず身軽だ。 だけどそれよりも―― 「すげぇ、師匠! なんであんなの避けれるんだよ」
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