嵐の前の凪のような

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話を戻そう。彼が魔力を受給している場面。ほぼ日課となった魔力の受給行為。この行為中、彼は本当の意味で無防備になる。 例えば――そう。街に生える木々と同じように。ただ生えているだけで太陽の日差しも避け切れず、虫に喰われても払えない。何が起きても、ただ上を向いて立つしか出来ない。そういう状態。 ただ、木々と彼が違うのは、彼の魔力受給の際の光景だった。彼が魔力を受給している際には、辺りが緑色の光に包まれ、幻想的な風景が広がる。乳白色の結晶が地面から浮き上がっては、シャボン玉のように破裂して、キラキラと辺りを輝かせる。 その風景を騒がしく走り回るメイド達や貴族達が見付けると、瞬間、時が止まってしまったかのように、うっとりとした表情で彼の姿を――幻想的な風景を窓の内側から眺めるのである。 こうして朝は彼の姿を見ようとする人で騒がしくも、静かに、去りとて慌ただしく、ごった返すのであった。  
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