嵐の前の凪のような

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彼の魔力受給が終わるのは、大体三十分くらいの時間が経ってからか。人々と違い、どこでも魔力を回復出来ない彼にとって、この行為が一日の明暗を分けると言っても過言ではない。 魔力が尽きた魔法使いほど、戦場で生き残れない人間は居ない。むしろ子供よりも生き残れないかもしれない。魔法に頼り過ぎるのも考え物だな。彼の独り言は虚しく響いた。 「おぅい。朝飯だぞーっと。朝飯をちゃんと食わない奴は戦場で一番最初に死ぬのよな」 背後の方――お城側から大きな大きな声が聞こえてくる。その声はどんなに怒声と喧騒に包まれた戦場でも響くような――やっぱり怒声だった。 彼には見なくても分かる。それが警護隊の統率長でもあり、猟兵部隊の団長でもある――部隊長の声であると。 その声に答えるように、彼は力の抜けただらし無い声で、やー、返事をしたのだった。  
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