嵐の前の凪のような

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返事をして立ち上がった瞬間、右半身に痛みを感じた。小さな痛みだったが、チクチクと針を刺されているようで痛い。 いまさら痛みに耐え切れないほど弱くないが、ふとした忘れた頃に訪れる不意な痛みには思わず苦虫を噛み潰したくなる。 結局、彼は、のろのろとした足取りで、食堂に向かうことにした。場内を見上げてみると窓口からパタパタと忙しなく走り回るメイド達が見える。出来ることなら、この慌ただしい音に乗って出立したいと思った。 その反面、それは何故だか皆に悪いと思って、キザで格好を付けている馬鹿者のようにも思えて――溜め息混じりの息を吐く。半身を引きずるようにしてのろのろと場内に消えて行った彼の後ろで七色の光りが渦巻いて、空に消えていった。  
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